momo memo 8
ジェリー・ランデガードが教えてくれたこと
今回は李の一番好きな映画、
コーエン兄弟代表作『ファーゴ』(‘96)の話をしたいと思います。
気弱なセールスマン、ジェリー・ランデガードがお金欲しさのため
自分の妻をごろつき二人組に誘拐させ、
義父に払わせる身代金を自分のものにするという計画を立てるが、
どんどん悪い方へと転がっていってしまうダークコメディーサスペンス。
台詞もほぼ覚えてるぐらいに何度も観ている大好きな作品。
その『ファーゴ』を最近久しぶりにちゃんと観て、
今まではジェリーの腑抜けさを笑ってたものの、
今回はとんでもなくかわいそうに見えてしまった。
多分それは、社会が作り上げた「成功者」というイメージに
妻を犠牲にしてまで必死にすがりつこうとする彼の悲しい一面に
何十回目にしてようやく気付けたのだと思う。
ジェリーの事務所には数多くのトロフィーや家族の写真が置かれているが、
彼の弱々しい表情を見るとその飾り物は必死な見栄えにしか過ぎない。
さらに、ジェリーが映り込んでいるカットを改めて見直すと
窓の仕切りやブラインドの縦線で常に囲われていて、
「社会」という檻の中に閉じ込められた風にも見えてくる。
誰も相談相手がいない中、
悪気はなくてもとんでもなく悪いことをしながら
自分を必死に守り続けようとするジェリー。
そんな惨めな彼にひどく感情移入してしまい、
「どこにでもいるただのセールスマン」
と、ジェリーをどこかでバカにしたり
冷たい態度をとってしまう登場人物や観客の態度こそが
このダークなストーリーを生み出してしまったのでは。
そしてそこから見えてくるのが、
この映画の登場人物のほとんどは孤独で
社会のステレオタイプを演じ切ろうとしていても
本当はただ話し相手を探しているということ。
コロナのせいでセンチメンタルになってるのもあると思うが、
この映画はただのダークコメディーサスペンスではなく、
人間が求める「幸せ」が何かを教えてくれる映画でもあると思う。
『ファーゴ』を観たことある人も、観たことない人も、
是非この目線で一度この映画を観て欲しいです。
【ABOUT momo memo】
好きな映画のワンシーンを好きなように描きながら
映像のことについて考える、気まぐれなお絵かきメモです。