FILM DIARY January 2025
暇さえあれば映画が見たいプロデューサー二井による、
映画評論ブログ#10です。
よろしければお付き合いください。
久しぶりに書きます!
2024年にみた映画は全部で210本でした。フランスのクレルモン=フェラン国際短編映画祭に、私がプロデュースした作品『洗浄』がノミネートされ、2月に1週間ほどクレルモン=フェランに滞在したのでそこでみた50本ほどが本数の後押しになっていそうです。今年も国内含めいくつか映画祭に行けたらと思っています。
自分が死んじゃうまでにあと何本見ることができるのか。見たいけどなかなかもう見ることのできないものも含め、未見の映画は2000本ほどあるかと思います。そして生きていくうちにもっと見たい映画が増えていって、でも、よかった映画はいつでも見返したい。
たまに不安になります。今年もなるべく見たいものをたくさん、とは思っていますが、なんとなくでも取捨選択するのが大事だと最近よく思います。当たり前のことですがこれが自分にとってはとても難しいです。自分がいいと思わなかった作品でもそのいいと思わなかった理由を考える時間が大事だったりするからです。それは広告でもMVでも同じで、とにかく数を見ないと語れないことがきっとあります。当たり前ですが…
今年は一度初心に戻って、新作よりも旧作を見たいと思っています。私は1930〜50年代の日本映画がとても好きなのですが、国外のその年代の映画をさらに深掘りしていきたいと思っています。古典に振り返るといつも瑞々しい発見があるからです。
ということで、早速2025年見てよかった映画の1本である『ある女の愛』について書きます。
『ある女の愛』は1953年公開のジャン・グレミヨン監督(1901-1959)の遺作です。彼の初期作品にはドキュメンタリーや短編が多く、のちにメロドラマを撮り始めます。グレミヨンはフランスでは当時全く注目されなかったのですが、唯一ポール・ヴェッキアリ(批評家であり監督、脚本家)だけが彼をいつも称賛していました。
私がグレミヨンを初めて見たのは2年ほど前で、『この空は君のもの』も最高です(1937年に飛行距離の最長記録を更新したフランス人女性パイロットを基にしたお話)。タイトルがよかったからなんとなく見たら度肝を抜かれました。『この空は君のもの』と『ある女の愛』に共通するのは活躍する女性をテーマにしていることです。彼の作品はこの時代に女性が、妻として、主婦としてではなく、社会に属する一人の人間として描かれます(当時は女性が社会に属する人間としてはカウントされず、内側へ追いやられてしまう家父長制的な面が強い時代であり、この年代、女性は男性を家で支える立場として登場する作品が多く見受けられます)。
本作も同じくで、主人公は20歳の女性医師。フランスの田舎の島に赴任して多くの病人を次々に救っていきます。最初は彼女を小馬鹿にしていた島の人々(男性)も、彼女の能力を認め徐々にその存在を認めていきます。しかし彼女は賞賛から得る充足感と裏腹に、「自分はこのまま一生一人で人生を終えるのか」という葛藤とともに医師生活を送ってもいます。さらに、島に建築士としてやってきた男性が彼女に一目惚れし、彼から猛烈にアプローチされるのですが、その中で社会生活と私生活のバランスを模索する難しさが強く描かれます。
島に来てから仲良くなった来年定年を迎える女性教師も独身で、主人公が「結婚は?」と尋ねると、「あなたの仕事はずっとあなたのものよ」「あなたもしあわせの源をみつけて」という言葉で、自分は仕事が生き甲斐であること、そして猛烈アプローチ男に現を抜かさず仕事に向き合いなさいということを遠回しに伝えます。そう言い放った女性教師は急に体調を崩し亡くなってしまうのですが、そのお葬式で誰も彼女を想って涙を流さない様子を見た主人公は、「やはり自分のしあわせは結婚して家庭に入ることだ」と自分に言い聞かせ、猛烈アプローチの男と共に島を出る決心をした矢先、彼女は再び病人を救います。島の人々の称賛を受け、仕事への充足感、そしてやりがいを感じた彼女は男と共に島を出ると決めた日、ギリギリまで悩みます。このまま島を出て、家庭に入るのか、それとも自分の信念に従って医師としての仕事をこの島で続けるのか。
そんなお話です。
ラストのクロースアップはとんでもない迫力で、もちろん主人公であるミシュリーヌ・プレールの顔力の影響もあるのですが、ある意味で怖さもあるというか、目が離せない素晴らしいシーンです(なんだかグレミヨンの作品は、大体ラストシーンにあるクロースアップが迫力満点)。いつの時代であっても女性であるということが不利にならず、正当な評価のもと働ける社会であってほしいです。今年も頑張ります。
またグレミヨンの作品に共通するのは、登場する人物が一見嫌な人に見えても、途中途中でその人のいい部分がうつされていっているような気がするのです。セリフにはそれが反映されなくても、そう感じさせる奥行きが観客には残してくれているようで、その客観性を投影するのがグレミヨンはとにかく巧みで感動するのです。
今年もいろんな映画をみます!
2025/01/23