川沿いの芝生の真ん中に一つのベンチが佇んでいる。ある日の夕方、そのベンチには久しぶりに再会する幼馴染の男女が座っている。彼らは小さなベンチで、どこかもどかしいけれど、愛おしくて優しい言葉を交わしていく。
この場所には他にも様々な人々がやってくる。別れ話をするカップルとそこに割り込むおじさん、家出をした姉とそんな姉を探しにやってきた妹、ベンチの撤去を計画する役所の職員たち。
一つのベンチを舞台に、今日を生きる人々のちょっとした日常を切り取るオムニバス長編作品。
In the middle of a riverside park stands a single bench. One evening, a couple of childhood friends who hadn’t seen each other in a while meet up at this bench. Although awkward at times, they sit there exchanging gentle words of affection.
And as time goes by more people gather at this little bench: a couple on the verge of a breakup that gets interrupted by an old man, a runaway and her older sister that comes looking for her, and city officers planning on removing the bench.
At the Bench is an anthology film showing glimpses of the everyday life of various people that gather by this little bench.
僕の散歩コースの途中には、川沿いにぽつんと佇む1つの古いベンチがあって、“川沿いにぽつん”と言っても、水辺に近いわけではなく、車道沿いにあるバス停のそれでもなく、芝生の広場の真ん中になぜかそれはあって、球遊びをしている子供たちや、犬の散歩をする人たちがチラホラいるのだけれど、みんな邪魔そうにするわけではなく、かといって座るわけでもなく、ただただ通り過ぎていく。
そのベンチと関わる人を見たことがないので、実は誰にも見えていないのではないかと思ったこともあるのだけれど、恐らく、ベンチの設置場所としては風変わりなスタイルをとっていることで、「あぁ座りたいなぁ」とは思わせない絶妙な調度よくなさがあるのだろう。そのベンチの周辺一帯だけがなぜかコンクリートの地面であることも不思議でならない。
僕がそいつに目をつけてからもう何年も月日が経っているのだけれど、一向に撤去される気配はなく、そいつはやはり誰にも見えていないのかもしれない。
そんなある日、近くで大きな橋の工事が始まった。
東京という街は、いつだってうねるように、まるで生き物のように、部分的な変化を続けている。便利になったり、綺麗になったり、勿論いいこともあるのだけれど、いつの間にか無くなってしまう景色を懐かしむ間もなく、記憶は塗り替えられてしまう。
愛着を抱いていた場所でさえ、久しぶりに訪れると「前はどんな様子だったけ…」なんて忘れてしまうこともしばしばだ。
変わりゆく景色の中で、変わらずそこにいるベンチ。古ぼけた座面はなんだか頼りなく、妙な味わいと個性を放っていて、後ろから眺めたときの、まるでおじいちゃんのような哀愁感に僕は心を奪われ、「いま、このベンチを作品として残しておかないと後悔しそうだ」と思い立ち、ベンチだけを舞台に、誰かの会話を集めたオムニバス映画を作ることに決めました。
というわけで…
『アット・ザ・ベンチ』は、変わり続ける東京という街の中で、変わらずに残したい ”とあるベンチ” を舞台に、四季折々、ある日のある人たちのちょっとした思い出の時間を紡ぎたい、という個人的な願いからスタートした自主制作映画です。
その思いに呼応して、仲間が1人増え、また1人増え…といった具合に、みんなが “個人” としてベンチに集まってくれました。そうして形成された、サッカーチーム1つ分くらいの僕らは、手弁当ながらも、自分たちでやれる限りのことをやってみよう、という考えで1編ずつをじっくりと作り上げてきました。
ある個人の「こういう映画を作りたい」という思いのもとに、同じく「作ってみようよ」という純粋な思いで集まってくれた人たちがいる、そうして作り上げられた作品は、また誰かの「こういう映画が好きだな」という温かな気持ちに届くと嬉しいな、と思っています。
これ以上に純粋な創作は、生涯の中で何度と出来ることか分かりません。
一緒に作って下さった皆さま、本当にありがとうございました!
奥山由之
お芝居している感覚がこんなにもないのかと、日が暮れる時間に撮っているので時間がないはずなのに、ぽかぽかとお風呂に浸かっているかのような心の温まりかたであり、トキメキが詰まっていた時間でした。視界にカメラが一切ない現場なんて、最初で最後だろうな。他の素敵な皆様のパートもすっごく面白かったです。おっくん、たいがくん、ありがとう!皆様も楽しみにしていてください。
「いつか、このベンチで映画を撮りたい」奥山監督がそんな話をしてくれた事がありました。まさか本当に実現するとは。友人でもある彼の監督デビューに誘ってもらえたこと、こんなにも嬉しい事はありません。監督の人柄を知り尽くした素敵なスタッフ陣は思いやりでいっぱいだし、広瀬すずさんとの初共演、一緒に演技をするのが本当に楽しかったです。あの日、あの場所でしかあり得なかった時間がたしかに映った本編は、とってもキラキラして見えました。
ピュアでたおやかな奥山監督とみなさんと、のびのびと撮影できたすてきな現場でした。蓮見翔さんの書く強烈にどうでもよさそうでどうでもよくないやり取りで空気の隙間を埋めていくのがとても楽しかったです。天気がいい日に外のベンチでごはん食べるとしたら何を選ぶか、劇場で答え合わせしましょう。わたしも全てがつながった映画をスクリーンで観るのを楽しみにしています。
監督に嫉妬心を覚えたのは初めてかも知れません。試写室で、よくわからないけど面白すぎる世界に連れて行かれました。自分の知らない他エピソードと一つに繋がれた完成品を観終わる頃には、何の変哲もないベンチに、得体の知れない愛着が芽生えていました。自分も自分の日常の、何の変哲も無い、でも自分にとっては特別な何かに、きちんと愛着を持って暮らしたいな、と思いました。今作の一部になれたことが本当に光栄です。
2015年にGINZAというオシャレな雑誌に衣装が用意されモデルさんみたいな、自分には珍しい仕事がありました。衣装に着替え外国人のモデルさんと、怒鳴り合い続けてくださいとの指示。その写真を撮ってたのが奥山由之さんでした。写真をみたらやはりムフフでした。前置きが長くなりましたが、その奥山さんが自主映画を撮られました。『アット・ザ・ベンチ』乞うご期待!!
すてきな機会をいただき、第3編に参加させていただきました。とにかく感情をむき出しにしてぶつけ合っております。嵐のように姉妹の愛憎が混ざりあった会話がとても愛らしく、クスッとします。全編を見たときに、1つのベンチを軸にこんなにも違う日常が広がっていて、どこか懐かしく、ホカホカした気持ちになりました。皆さんに見ていただけるのが楽しみです。
一つのベンチにいくつもの物語があって、それは特別なことじゃないかもしれない、自分があの時座ったあのベンチもあの時蹴飛ばしたあのボールにもいろんな人につながっていく線があって。そんなことを考えながら街を歩くと自分もその続きになってみたくなった。何かと関わるということが億劫な世の中で、必然のように席につく登場人物たちがどれだけ愛すべき者たちなのかをこのベンチが教えてくれました。ep.3は嵐のようにすぎていく一編だと思います。私自身とても楽しい撮影でした。公開を楽しみにしていただければと思います。
現場での撮影の仕方が今までと異なり映画の未来への可能性を感じました。これからは、ベンチを見かけると、必ずこの作品を思い出すだろう!と思っています。素敵な作品に参加出来て、良かったです。
忘れたくないのに無くなっていく場所、自分の心に留めておきたい場所がある。思い入れのある実在するベンチを軸に置くことで、様々なキャラクター達の愛らしさや可笑しみが浮き彫りになり奥山監督の柔らかい"らしさ"を感じました。私が出演させていただいた物語はトリッキーでウィットに富んでいます!まさか神木君に演出してもらい、草彅さんと宇宙語を話すことになるとは…後にも先にもこの作品だけだと思います。現場では今何をしてるのか分からなくなり笑い転げました。ぜひ5編通して観て、違和感を楽しんでいただきたいです。
草彅さん吉岡さんと久しぶりの共演させていただいて嬉しかったですし、わずかな時間でしたがとても貴重な経験をさせていただきました。奥山監督とは以前広告の写真でのお仕事でご一緒して以来で、今回映像でご一緒出来たのはとても嬉しいです。監督の眼に映る光景の中の一部になれて幸せに思います。僕は映っている以上に色々やっているので、ぜひ楽しみにしていてください。
奥山くんにしか撮れない映画です。観れば観るほど奥山くんだなってホッとしました。変な奥山くんが好きです。
自由で朗らか、なのにハイクオリティー。最高に幸せな作品です。奥山さんからお手紙のようなDMをいただき、即決。その後、初対面で、真冬に、あのベンチで、「こんなのどうですかねー。寒いですねー」なんて話をしながら物語をつくりました。あれから二年足らずで劇場公開。すっごくうれしいです。
自分の作品がスクリーンで観れるのがすごく嬉しいです。どこかの街にあるであろうなんてことないベンチの話を、いろんな街で観れるのってすごく贅沢なことだと思うので、僕もどこか行ったことない街で観たいです。その街にこの映画みたいなベンチがあったらいいなと思っているし、多分あるだろうなとも思ってます。
絶対に自分が関わりたいと思えるお仕事というのは、いつだって最初の連絡でわかります。とにかく全ての言葉を尽くして説明してくださっていたその文面には奥山さんのこの企画に対する熱い想いが詰まっていました。写真家として唯一無二の場所を築き上げた同世代の天才、奥山由之さんが30代で新たな挑戦に出ることを、同じクリエイターとして凄く尊敬しましたし、やっぱりこの方の熱意は凄いと思わされました。そんな、奥山さんにとって大切な機会に、脚本家としてお声掛けいただけたこと大変光栄に思いましたし、凄く楽しく書かせていただけて感謝しています。心身共にエネルギーを使う脚本に奥山さんを率いる座組みの皆様、何より今田さん、森さんのお二人が素晴らしく息を吹き込んでくださっていて最高でした!
温かさと真摯さに満ちた皆さんと共に作品を作らせて頂けたことが、何よりも嬉しく、幸せでなりません。まるでご褒美のような時間でした。本当にありがとうございます!ただただ「ベンチで話している人たちを見つめる」というシンプルな作品ではありますが、登場人物や情景に向けられた愛おしい眼差しを、ぜひ劇場でご覧頂けましたら幸いです。