イベントレポート:蓮見翔×奥山由之

12月8日(日)16:00の回@テアトル新宿&18:00の回@109シネマズ二子玉川

この日のトークショーのゲストに登場したのは、第2編の脚本を担当した脚本家・演出家の蓮見翔さん。もともと蓮見さんが主宰する8人組ユニット、ダウ90000の大ファンだったという奥山監督は、蓮見さんが書く言葉がもたらすユーモアや、セリフまわしなどに感銘を受けてきた。そこで意を決し、今から2年ほど前にX(旧Twitter)から蓮見さんにコンタクトを取ろうとDMを送ったというが、残念ながら現在までDMに対する返信はナシ……という状況。当の蓮見さんは「だって、良ければ一度お話しませんかと、勧誘のような感じの連絡だったんですよ。しばらくどうしようかなと…そう思っていたらこの話が来たのでありがたかった。最初からこっちの連絡にしてくれたら良かったのに」と冗談めかす。

「変な感じになって申し訳ないです」と反省の弁を述べる奥山監督だったが、「ありがたいですよ」と蓮見さん。脚本を書く前からキャストは決まっており、しかもキャストは岡山天音、岸井ゆきの、荒川良々という超実力派。「蓮見さんの書く作品の中にこの三人が登場したらどうなるんだろう」という期待感もあった。俳優陣の映画的な芝居、セリフ回しと、蓮見さんが織りなす強い言葉、固有名詞、日常から少しずれた言葉、といったものが組み合わさった時の化学反応に期待するというところもあった。そして何といっても、ベンチで別れ話をしているカップルの間に割り込むおじさん、という異質な存在は、荒川良々さんという俳優の唯一無二な存在感と非常にマッチしていた、といった話題で盛り上がるふたり。

普段からネタ帳にいろいろとネタを書き留めているという蓮見さん。今回の脚本の発想のきっかけとなったのは、蓮見さんが散歩途中で、サラリーマンが公園のベンチに座りながらお花見をしている姿を見かけたことだった。公園のベンチに座り、パックのふたを小皿代わりに。そしてその“小皿”に薄く醤油を敷き詰めて、スーパーで買ってきた寿司を食べていたところ、そこに桜の花びらがひとひら、ヒラリ。「これはすごくいいものを見たなと思って書き留めたんです。この情景はいつか使いたいなと思っていた」。

今回晴れてそのネタを取りあげることとなったが、実際に映像の中に“スーパーで買ってきた寿司”が映し出されるとなると情報量が多いのではないか。ならば寿司という視覚的な情報を、男女のたとえ話につなげたらゴチャゴチャせずに済むのではないか。そういった考えのもと今回の脚本はつくられた。「醤油のところに桜の花びらなんて。そんな情緒的な瞬間があるんですね」「あるんですよ。やはり散歩って大事だなと思います」としみじみ語り合ったふたり。ちなみに桜の花が醤油にヒラリという描写だが、残念ながら撮影の時期的な問題もあって今回は織り込むことはできなかったそうだ。

学生時代は、映画学科の脚本コースに通っていたという蓮見さん。そこでは自分が書いた脚本を、監督コースに通う他の学生に撮ってもらう機会が多かったが、映像化にあたっては、自分の意図した間やテンポとは違った解釈での芝居、演出などが施されていることも多く、苦い思いをすることも多かった。「だから今回も正直、観るのが怖かったんです。でも完成した映画を観て、マジでビックリしました。おこがましい言い方ですが、普段から(活動を)見ていただいているんだなと。逆に恥ずかしかったです。自分のメソッドが全部バレていると思って」という蓮見さんの称賛の声に、安どの表情を見せた奥山監督。

ダウ90000のファンとして、蓮見さんの演出している作品に対するセリフ回し、テンポ感、リズムなどは理解していたという奥山監督に「めちゃくちゃうれしいですね」と蓮見さん。ちなみに奥山監督によると、本作の撮影の流れは、撮影前に、役者陣を奥山監督のアトリエに集まってもらい、15分間通しての稽古を何回も繰り返して、芝居を固めたところで、あらためて現場に行き、撮影をするというもの。そしてその稽古の中で、奥山監督が細かい部分のリクエストを伝え、そして役者陣からも、いろいろなアイデアが返ってくるというやり取りを繰り返した。そのやり取りを通じて、「やっぱり彼らの反射神経はすごいですよ」という奥山監督に、「やっぱりすごいなぁ」と蓮見さん。

その上で、映像ならではの作品をつくるためにも、俳優の芝居にプラスアルファで、編集点をどこにするか、どのタイミングで誰の表情を見せるのか。いつに寄るのか引くのか。間合いはどれくらいにするのか、といった編集の工程にも力を入れている。その話を聞いていた蓮見さんも「自分もよく映像を観ていて、言っている人の表情だけでなく、言われている人の表情を見たいということがあるんですけど、今回はそのあたりもしっかりと映し出されていて。編集がすごいなと思った」と感心した様子で語ると、「受け手側の、反応の表情を編集で使うことは、第2編に限らずだいぶ多い作品だと思います」と明かした奥山監督。

この日は二子玉川でもトークショー

二子玉川ではお客さまから「フィルムで撮ることは怖くないですか?」という質問が。今回使用されたフィルムは1ロールで約12分撮影可能なものだったといい、それゆえそのフィルムをどれくらい使うのか、という命題にいかに向き合うか。余ったフィルムをどのタイミングで使うのか。第3編のような激しいテンションの芝居の場合はどのタイミングでカットを切ったらいいのか。長時間撮影が可能なデジタルと違い、そうした計算が必要となり、その点は難しかったと語る奥山監督。

さらに別のお客さまからは「自主映画だと聞きましたが、どうしてこんな豪華なキャストが?」という疑問の声が。その疑問に対しては、心から出演してもらいたいと思った人に対して、しっかりと熱量を持って、本心で、自分のやりたいことを真摯に伝えていくことで、その気持ちを皆さんが受け取ってくれた、と振り返った奥山監督。作品に真摯に向き合ってくれたスタッフ、キャスト陣にあらためて感謝の思いを述べると、蓮見さんは「そりゃ奥山由之から映画を撮ると言われたら、こんなの参加したいに決まっていますよ」とキッパリ。だがそこから、ファーストコンタクトで送ったSNSのDMの返事がまだ届いていない、という話となり、「僕が面識のないかたにSNS上でDMを送ったのって(本作のオファーのために出した)今までの人生で生方美久さんと蓮見さんだけなんですよ。その決死の思いを汲んでください」と冗談めかした奥山監督。会場は笑いに包まれた。