イベントレポート:安部勇磨×奥山由之

11月30日(土)16:30の回 @テアトル新宿

この日の会場も大勢の観客で大盛況。トークショーのゲストに登壇したのは、本作の音楽を担当している安部勇磨さん。2014年に結成されたバンドnever young beachのボーカル・ギターを担当している安部さんとは、奥山監督がバンドのアーティスト写真の撮影を担当したり、ミュージックビデオを手がけたりする中で親交を深めた。そんなふたりも今や10年来の仲とのことで、この日も和気あいあいとした雰囲気の中、トークが行われた。

安部さんはこの日、お客さまと一緒に本作を鑑賞していたとのことで、映画の感想を「奥山くんが本当に好きでやりたいことをやっている感じが伝わってきて、いいなと思いました」と語る。

奥山監督によると、この映画は会話が主体であることから、劇中で登場人物の感情に寄り添うような、観客の心情を誘導するような曲をつけることはせずに、それこそ最初のオープニングと最後のエンドロールだけに曲があれば良い、という考えだった。一方の安部さんも映像を見て、そこに映し出された映像や役者の“気持ちいい緊張感”に感銘を受け、音楽はいらないのではないか、という考えだった。もともと本作は、最初の2編のエピソードをウェブで公開していたが、実際その時も使用されていた安部さんの楽曲はひとつだけだった。

だがその後あらためて本作が、追加撮影などを含めた5編のオムニバスからなる劇映画として制作され、公開されることとなる。その際に、この作品が1編から5編まで、全編にわたって同じ場所を舞台としているということもあり、それぞれのエピソードごとに、そのエピソードのトーンを決定づけるような曲を作るべきではないかと思い直したという奥山監督。そこで安部さんにエピソードごとの音楽を追加で依頼することとなった。

スタジオでの収録は奥山監督も立ち会っていたというが、もともと安部さんのスタイルというのは、最初から固めすぎずに、安部さんのアイデアをベースに、現場でメンバーたちから出てきた意見を掛け合わせながら、セッション的に形にまとめていくというもの。それゆえ奥山監督に、遊んでいるのではないかと思われるのではないかと心配だった、と笑う安部さん。もちろん気心知れた奥山監督ということで、感覚的にこういうことを求めているのだろうといった答えや確信は自分の中にあったというが、楽曲を固めていく過程においては、奥山監督から大丈夫なのかと心配される瞬間もあったという。

そんな作業を振り返り、「劇伴の音楽は今回で2回目ですけど、今回で引退ですね」と冗談めかす安部さんだが、実際に映像の秒数に合わせて音楽を当てはめていくという作業には難しさと奥深さを感じていたという。ましてやそれが奥山監督の大切な思いのこもった作品ということで、当初思ったよりも映画音楽の大変さを実感していた。もちろん作業をはじめるにあたって、事前にここのカットの曲はだいたい何分何秒でつくってほしい、といった情報が奥山監督よりLINEで送られ、共有していたはずだったが、「この人、全然読まないんですよ」と暴露し、会場は大笑い。

5つのエピソードに合わせて曲をつくるということは、それぞれに曲調が違ってくることから、「遊びすぎてないか」、あるいは「真面目すぎないか」といった塩梅を探るのは大変だったと語る安部さん。奥山監督のイメージに合う曲をつくる、という命題は、思った以上に大変だったと振り返る。だが実際に送られてきたデモ音源に対してのフィードバックを伝えるために奥山監督が電話をしようとするも、安部さんを捕まえるのは至難の業だったという。「絶対に電話出ないでしょ」「出ないんだよねぇ」「なんで? 出てよ」「ごめんね」といった具合に、仲のいい友人同士だからこそできる遠慮のないやり取りに会場は笑いに包まれた。

そんな遠慮のないやり取りがありつつも、あらためて「別に本当に怒ってるわけじゃないから」と笑う奥山監督。安部さんも、映画を観ている時にも、音楽はどうだったか気になってしまいドキドキしていたというが、会場からは温かい拍手が。「音楽を最初と最後だけにしなくて良かった」と語った奥山監督に対して、安部さんも「楽しかった。夏のいい思い出です」と笑顔で返した。