イベントレポート:奥山大史×奥山由之

12月14日(土)14:00の回 @テアトル新宿

この日のゲストは、奥山由之監督の実弟であり、映画『僕はイエス様が嫌い』『ぼくのお日さま』の監督を務める奥山大史さんが登場。幼い頃から互いをよく知る兄弟ということもあり、この日のトークは終始リラックスムード。だがふたりともクリエーターであるという共通項を持つこともあって、その話題はお互いの作品の感想にとどまらず、創作のスタイルまで広がるなど、刺激的なトークショーとなった。

この日のトークのためにあらためて『アット・ザ・ベンチ』を見たという大史さんは、特に劇中で流れる音や映像などに懐かしさを感じたという。さらに本作はエピソードごとに撮影時期が違うことから、そこに流れる虫の音や、工事現場の音など、同じ場所なのにその印象が少しずつ変わっていくさまが印象に残った。「音って面白いよね。音もひとつの演出だと感じる」という大史さん。そこから互いの作品について「あそこはどうやったの?」「あれはね…」といった具合に、クリエーター同士の会話のキャッチボールが繰り広げられた。

映画制作においては、現場で収録した音とは別の音を後から映像に足したり、効果音や環境音を映像に足す、といった「音響効果」という作業工程があるが、本作でも音を足したり引いたりしながら、『アット・ザ・ベンチ』の世界観をつくりあげた。たとえば第1編は真夏の撮影だったため、まわりでセミが鳴き、近くでは大きな橋の工事も行われ、かつ車道も近いという環境だった。そこで音は抑えめに。現場で録った音と、後で静かなときに録った音を混ぜ合わせてつくりあげた。

また「第4編」に登場する“宇宙人の声”を担当したのはなんと神木隆之介さん。ロケバスの中で、神木さんに父さんと子どもの声を演じ分けてもらい収録。本編ではそのセリフを後から加工して使用しているという。「神木さんに何度も宇宙人の声を繰り返して演じてもらううちに、ふと冷静になると、これは一体何をやっているんだろうと我に返って。不思議な時間だった」と振り返った奥山監督。また「第3編」では、言い合いをする姉妹の関係性の変化に合わせて雷の音や、鳥の音などを付け加えるなどして、ふたりの感情を雄弁に描き出す演出のひとつとして、音も効果的に使用した。

本作は自主制作であるため、スタッフも最小限のチームでつくりあげた。「やはりこれだけ豪華なキャストの方たちが出てくる映画となると、どうしても規模が大きくなって、スタッフもどんどん増えていくけど、その分意思疎通が難しくなる。でもそうならないためにあえてミニマルなチームでやっている感じがすごくうまくいっていて。本当にうらやましいなと思う」と感心した様子の大史さん。

本作の舞台となったベンチは、奥山監督のアトリエの近くに実在するもの。「本当にそこかどうかは分からないんですけど、なんとなく分かります。多摩川遊園のところだよね」と語った大史さん。奥山監督からはいくつかの企画の相談を受けたり、脚本を読んでもらったりしてきた。その中で企画が立ち上がっては消え、といった経緯を目の当たりにしていたこともあり、「ここに行きつくまでにいろんな企画が動いていたもんね。でも結局1周して、ここに戻ってきたって感じがすごくする」という大史さん。奥山監督も「何かひとつのシチュエーションを決めて、そこで繰り広げられるオムニバス映画は、それこそ学生時代によく作っていたから、本当に原点に戻ってきた感触があるし、監督デビューとしては最も理想の形だった」としみじみ語る。

その後も大史さんがメガホンをとった映画『ぼくのお日さま』で、スケート靴が氷をえぐる音を収録するために、飲食用の大きな氷をつかって音を収録した話や、『アットザベンチ』編集の作業工程の話、そして感情をつなげていくための編集技術。さらには奥山監督から「大史はテイクが多いんですよ」と指摘された大史さんが、テイクを重ねる際の思考回路を紐解くなど、クリエーター同士の視点から語られる会話は刺激十分。観客も熱心に耳を傾けていた。