Spoon.対談
Spoon.対談
映画フリークなクリエイター×Pの
映画制作と広告制作

映画を愛し映画をつくり、広告もつくるクリエイティブ・ディレクター/映像監督の鈴木健太さんをお迎えし、Spoonの二井プロデューサーと制作のおもしろさや課題について語っていただきました。多才がすぎる鈴木さん、偶然にも電通のインターン経験者。インターンのこと、日々のインプットのこと、おなじ“映像”でも目的からつくりかたまでまったく違う映画制作と広告制作のこと――新進気鋭のふたりの対談です。

映画フリークの映画遍歴

鈴木

二井さんは映画めっちゃ好きですよね。何から入りました?

二井

子どもの頃はジブリとか見てました。大学ではリベラルアーツを学んでいたんですけど、すごく暇で。毎日友だちとだべって帰るみたいな感じで、これでいいのかなあと。暇すぎるので留学したのですが、そこで観た『MILK』という作品で、映画はすごいと思ったんです。そこから映画をたくさん観るようになり、沼のようにハマっていきました。で、大学院に進んで映画の勉強をしたんですよね。

鈴木

そこまで衝撃を受けた作品だったんだ。

二井

ガス・ヴァン・サントが監督で、ショーン・ペンが初の性的マイノリティ政治家を演じた作品です。私が留学したのはポートランドで、ゲイの人が比較的多い場所。でもそういう人が卵を投げつけられているところを目の前で見たこともありました。現実にこんなことがあるんだ、というのと、映画はこれを伝えられるひとつの手段だと思ったんです。文章ではなく映像に残すことの意義を感じました。視覚的で、わかりやすいじゃないですか。なんか、すごいなって。

鈴木

たしかに、記事で読むよりも映画で見た方がのめり込めるし、空気が読める。そこはかなり大きいですよね。その時代の記録にもなるだろうし。 僕は親父がすごい映画好きだったんです。3歳のときに地元の映画館で『スター・ウォーズ エピソード1』を一緒に観た。なに言っているかわからないし、字幕も読めないし、まったくわからないんだけど、それが人生最初の記憶になるくらいのものでした。そこからいろいろ観るようになって。ジャック・タチとか、ユーリ・ノルシュテインとか。クレイアニメの『ガンビー』など、コマ撮りのアニメーションもずっと好きでしたね。 観ているうちに漠然と、いつか自分で作りたいという思いを持つようになりました。今こうして二井さんと映画をつくっているというのは、ここに繋がったなあと。

二井

つながりましたね~。それにしても、私3歳で見た映画なんて覚えてませんよ。

子どものころから映像制作

鈴木

小3くらいから、自分でアニメをつくったり、コマ撮りの映像をつくるようになりました。暇すぎて。iMacを使って、イラストレーターで書いたアニメをキーノートに貼り付けてコマにして、ムービーにしていました。あとからFlashを知り、「こんなに楽にできるの?」と。

二井

すごいなあ、めっちゃ大変なことしていたんですね(笑)

鈴木

GarageBandというソフトで曲もつくって。Macがあったからできたんですよね。ジョブズありがとう。

制作は小学校から始めて、ずっとコンスタントに続けていたんですか?

鈴木

そうですね。NHKデジタル・スタジアムという番組で賞を獲ったときから、ずっと映像を作り続けています。中高に入って「映画つくろう」と友だちといろいろつくったり、ネットで一緒につくれる人を探したりして。そこで出会った人が、今CMの撮影監督していたりしますよ。林大智くんとか。

大学ではその方向で専攻を選んだんですか。

鈴木

徐々に意識が変わって、「映画をつくりたい!」というより、誰かに何かを「伝える」ことを勉強したいと思うようになり多摩美の統合デザイン学科に入りました。ただ、MVをつくる仕事も始めていて、そっちの方が楽しいなと。課題は世の中に出ないじゃないですか。それなら、どんどん自分のつくったものを見てもらえて、という方が楽しいよなと。なので大学は1年で辞めてしまいました。

インターンに入るという道

鈴木

そんななか、当時やっていたリオ五輪の閉会式を見て、かっけー、と。世の中の空気を変えた感じがあって、いつかこんな仕事してみたいと漠然と思うようになりました。誰が作ったんだろう?と率直に思って調べたら、当時電通の菅野薫さんがやってると知り、とりあえず菅野さんに会いたい一心でインターンに応募しました。面接で「大学は辞めるんですけど」と言ったら変な空気になりましたけど。

二井

もう普通にMVのディレクターをやりながら。すごいですよね。

鈴木

高校三年生の頃ラブリーサマーちゃんというアーティストとSNSで知り合って、彼女がメジャーに行ったのと一緒に、自分もいろいろな人から知ってもらえるようになった。運がよかったんです。

つながり上手ですね。高校でも自分から仲間を探しに行っているし。

鈴木

インターンに行ったのも、行けば何かあるかもと思って。実際、なにかあったし。 それまでずっと独学で、営業から企画から制作から、全部自分でやるしかなかった。でも会社では、デザイン、コピー、プロデュース等々、いろいろな要素の専門領域の人が共に取り組んでいいものをつくっている。それまで、そういうことを全然知りませんでした。 Spoonさんもそうだと思うんですけど、何かをつくる人たちがひとつ屋根の下に集まっているということが奇跡だなと。フリーで始めるよりも圧倒的に魅力だと感じています。いろいろなつながりもできるし。だからインターンでそれを体験できたのは楽しかったです。

長期だから、わかることがある

二井

電通でのインターンの期間はどれくらいだったんですか。

鈴木

一か月くらい。学校のように学んで、最終課題がありました。基本的に、毎日ひたすら企画を考えていました。Spoonさんのインターンはがっつりですよね。

二井

がっつり、ほとんど社員と同じ扱いになります。で、どうですか?やってみますか?みたいな。

鈴木

長期でいないと見られないものがあるし、そこで自分に合っているかがわかりますよね。いろいろ知ってから入った方が長く続くと思うので。

二井

入社してわりとすぐに辞めてしまう人もいますからね。でもそれは、その人にとっても会社にとってももったいないなって思うんです。

鈴木

きっと、多くの人は映像が好きで入るわけじゃないですか。それでプロダクションに入ったら疲弊してしまって、映像が嫌いになってしまったという人を何人も聞いたことがあります。先輩との相性、仕事内容、生活リズムなどいろいろな要因があると思うのですが、入社するかしないかを決めるグラデーション期間があると、少し気持ち的な負担が減るかもしれないですよね。だから、 Spoonさんのこのインターンはすごくいいなと思いました。

二井

映像をつくりたくて入っても、最初はお弁当の発注とかからじゃないですか。そこで辞めてしまう人もいますし。

ちなみに、クリエイティブな仕事をしているおふたりは、日頃どんなインプットをしているんですか?

二井

配信などで映画をたくさん観ますし、映画館にも月1以上は行きます。CMも観るようにしています。ただ、一番大事なのは観た後に人と話すことなんですよね。自分のなかだけで貯めていても仕方がないし、同じものを観ても「この人はこう思うのか」「その点自分はこう思う」と、交換するのがおもしろい。撮影部の人と話せば「あれは機材ヤバいよ」とか、自分の知らないことも聞けますし。それぞれ見ているものが違うんですよね。

鈴木

わりと同じかも。人の話を聞くようにしています。たとえば移動中や、打ち合わせ前のちょっと5分で「最近何見ました?」と聞いたり。みんな何かしら持っているので、それを聞いていく。「このドラマがよかった」「動画がよかった」とかジャンルを問わず聞いて、実際に見てみて、その積み重ねですね。 あとは、好きだと思ったものをリアルタイムで追い続けるのもいいですよね。好きな監督の新作が出るとなれば、それまでの文脈をもって見られるから。

映画の案件で、初めてのプロデューサー仕事映画の案件で、初めてのプロデューサー仕事

二井

今一緒に映画制作を進めているんですよね。まだ情報解禁前で詳しいことは言えないのですが。話が来たときうれしかった~。

二井さんはこれまでPMで、これがプロデューサーとしての初仕事ですよね。

鈴木

え!? 知らなかったです。二井さんめちゃすごいですよ。脚本もほぼない段階なのに香盤をきれいに引いてくれて。気合の入り方がえぐい、感動しました。

二井

本当ですか? せっかちなんですよね。すぐせかせかしちゃう。

鈴木

作り手にとっては安心感しかないです。 フリーのディレクターには制作会社と組むことを苦手とする人もいて。でも、Spoonのみなさんはホスピタリティに溢れている。言うことはきっちり伝えながらも、クリエイターを伸ばしてくれる感じがあって。脚本をみんなで読んでいても、「ここはどういうことですか?」と、毎週2~3時間議論していましたよね。だから監督も鍛えられるし、のびのびもやれています。褒めすぎですかね?

PMからPになられて、どうですか?

二井

できることの幅は広がりました。ただ、PMといってもチーフ、セカンド、サードとあるんですよ。最初の1年はずーっとセカンドかサードで、2年目の初めあたりから「早くチーフにしてください!」と強く言っていましたね。 私の場合は、チーフになった時点ですごく視野が広がったんです。スタッフたちとたくさん話さないと仕事にならない立場になって、これをしないと自分が制作に関わったという気がしなかった。チーフはもう、スタッフ全員とコミュニケーションとりまくらなきゃいけないので。もちろん監督とも話せるようになりますし。 さらにプロデューサーになると、任せるところは下の人に任せつつ、見守り続けることになります。それもとてもおもしろい。

鈴木

責任を伴うからこそ仕事が楽しくなることってありますよね。自分が背負う意識を持てるかどうかって大事だと思います。

プランナーもディレクターも超えていきたいプランナーもディレクターも超えていきたい

鈴木さんは今は映画のお仕事が多いんですか。

鈴木

いえ、広告の企画が多いです。ミュージックビデオも多くて。でも基本的に自由に動けています。広告もやりつつ、個人的に立ち上がったプロジェクトもやってみたり。劇団「ノーミーツ」もそうでした。 コロナ中にとくに感じたのですが、どんなに小さくても「これをやった人間です」という自分の名刺を持っていた方が人に認識されやすい。会社は関係なく、プロトタイプをどんどん作って、自分で打ち立てていきたい。言われた仕事だけでなく、好きなこともしているのがヘルシーかなと思うんです。

ノーミーツは一大ジャンルを立ち上げましたね。

鈴木

コロナ禍で三密がNGになり、「舞台」が実質なくなった。そのときにはじまったのが、Zoomなどでリモート演劇をするノーミーツです。ただ、最初は遊びで映像を作ってバズっていたりしたのですが、バズっても生活は苦しくなる一方で。そこで、長編をつくって公演ができないかと。とはいえ、まだこれからな演者たちにお金を払って、リモート演劇なんていう聞きなれないものを観てくれるかという懸念はあったんですが。やってみたら思ったより多くの人たちに見てもらえました。あの頃はそういう時間がみんなにあったし、求められていたんですよね。

これからやってみたいことは。

鈴木

映像ディレクターって、ほとんどの場合、どこかから降りてきた企画を映像にする。それがなんか……自分で企画したいと思っちゃって。プランナーもディレクターも関係ないんじゃないかなと。 あとは、“映画をつくって満足”ではなくて、ビジネス的にどう広げられるかに挑戦したいと思っています。作り手にどう還元するか、世界をどう目指すか、作品内容だけでなくビジネスとしてこの世代の作り手たちと日本から世界に行きたい。 会社に入った1年目、正直最初は「言われたようにやる」「上の人がそうしているからやる」という思考停止状態で働いていました。そういう一年があって、自分で「これじゃだめだ」と気づけた。なので、自分でCDを勝手に名乗って、色々仕事をしていました。これからもクリエイティブディレクターとしての仕事もどんどんやるし、つくるだけでなく世界に広げていくこともしたい。広告プランナー、映像ディレクターというところを超えて。

映画制作の魅力と、広告制作の魅力

広告のクリエイティブと、映画や動画の制作にはどんな違いや関係性を感じていますか?

二井

私は長編の映画や動画が楽しいです。とくに今取り組んでいる映画に関しては、同世代くらいの若手が多いんです。みんながみんな、意見を言うことができる。そういう風通しのよさがおもしろい。 もちろん、広告もすごくおもしろいです。監督がいて、クリエイティブがいて、制作がいて、撮影に関わるスタッフみんなで一生懸命考えて。クライアントに跳ね返されてもがんばる、その感じがすごいアガるんですよね。両方、全然違って楽しい。

鈴木

同じ映像でも違いますよね。お願いされてつくるものと、自分たちから「こういうのもおもしろいんじゃないか」と世の中に提案するもの。どっちにも良さがある。 ただ、広告の映像は納品したあと手離れてしていくこともありますけど、自分たちの作品は完成した後にどう広げていくかまでやらなくてはならない。海外の映画祭に応募したり、マーケットに出展したり。企画の段階で共同出資を募ることもあります。まだ勉強中ですが、そこまでやれるのはちょっとおもしろいですね。

それもつながりですね。

鈴木

そうですね。映画はずっと残り続けるということも自分にとって大きいです。つくり手としてすごく意義深いし、自信に繋がります。 ただ、観る人からすれば、広告は受け取るものだけれど、映画は意思を持って観に行かないと目に入らない。ハードルは高いけど、そのチャレンジは楽しいです。 Spoonさんも色々作られていますよね。

二井

私は未経験ですが、会社としてはドラマもつくったことがあります。ただ、あれこれ見ていて、CMはやっぱり使えるお金が比較的大きいなと思うんです。スタッフにもしっかり報酬がある。でも映画やドラマはお金を十分にもらえないことが多くて、それでもスケジュールはぎゅうぎゅうで。あまり健康的ではないですよね。そういう点で、CMをつくる人でよかったと思うことはあります。

鈴木

二井さんは、これからやってみたいとかありますか?

二井

私も、映画は継続してやっていきたい。そして同世代の人ともっと仕事をしたいです。外部スタッフと話をすると、すごくおもしろいんですよ。映画好きにも出会えます。「この人とつくりたい!」と思うような人と一緒にやっていきたいし、自分もそう思われる人間になりたいです。 社内のことで言うと、言い方が極端かもしれませんが、Spoonは何をやってもそんなに怒られないんですよ(笑)。私は院を出たあとは映画のライターになりたかったんですけど、金銭的なところと、女で若いというところで足元を見られて、それ一本でやっていくのは難しい。だから、ここに所属しながら、たまに映画ライターの仕事もできることがありがたいです。ほかにも、PMをしながら振付師をしている人もいます。自分の好きなことも続けていけるのは本当にいいところだと思います。

やりたいことに挑んでいけるというのは、仕事の広がりにもつながりそうですね。前進する力に満ちたお話を、ありがとうございました。

鈴木 健太

A クリエイティブ・ディレクター / 映像監督 1996年生まれ。

大塚製薬「ポカリスエット」、本田技研工業「Hondaハート」等の広告・CMの企画や、ミュージックビデオの監督を中心に、「NOTHING NEW」など様々なプロジェクトの立ち上げも。dentsu zero 所属。

二井 梓緒

Spoonプロデューサー 1995年生まれ。

POCARI SWEAT 2023 Introduction『杏慈』『椿』、三井住友銀行「MOMENT」篇 等のCMをPMとして担当ののち、プロデューサーとして鈴木とともに映画制作中。

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